第32話 はぐれ女(2)
「彼女が何か悪いことをしたのですか?」と、メドゥルノの問い掛けに、長老は思い起こすように話し始めた。
「あの頃、我々一族は、この広い一帯で協力し合って過ごしていた。それは、それは、大家族で、冷たい冬の日などはここら当たりも身を寄せ合って眠る仲間達で埋め尽くされる程だった。春には、たくさんの子らが渦を巻く様に泳ぎ回っていた。食べ物も一面に何処にでも何かしらあって、自由に食べることができた。しかし、ある日、大水がこの辺りを襲ってきて多くの仲間達が流されてしまい、この辺りの草も木も持って行かれてしまった。必死で土の中や穴蔵に逃げ込んだ僅かな仲間だけが生き残った・・・。生き残ったものの、辺りの景色は砂地獄と化し、食べる物もほとんど無い状態だった。それでも、皆協力し合って食べ物を探し、分け合いながら生き延びて、少しずつ子も増えてきた頃だった・・・彼女が現れたのは・・・。ヒレも傷ついて、まっすぐに泳ぐことすら出来なかった彼女を、我々は、助けて仲間に迎え、寝床を譲り、食べ物の場所も教えた・・・。」
長老は、つまりながらも話を続けた。
「ところが、彼女が現れて以来、教えた食べ物の場所が一夜で荒らされる事件が度々起こった。多くの仲間が彼女のせいだと言い張ったが、我々一部の者は、そんなことは無いと彼女をかばった。その事件が発端になり、我々は三つの集団に分かれてしまい、少ない食べ物を取り合い、寝所を守るために闘う日々が続くようになってしまった。それでも、我々は彼女を仲間にして守ることを選んだ・・・。それが、間違いだった。ある日のこと、彼女が良い食事場所を見つけたというので、若い仲間達何匹かで出掛けて行った。穏やかな日だった。私と共に残った者は、若い仲間が良い知らせを持って帰ってくると期待して待った。一日経ち、二日経ち、待ち続けても若い仲間達は帰って来なかった。何があったのか。もしかすれば、他の集団との争いに巻き込まれたのかもしれないと案じ、じっとしていられなくなった我々は、何処へ行ったのか分からないまま、捜しに出掛けた。行けそうな所はくまなく捜した。他の集団に出会って聞いて見ても知らないの返事だった。もう、諦めて帰ろうとしたとき、草に隠れている彼女を見つけた。とっさに彼女は逃げ出した。『待ってくれ』と追いかけようとした時、大きな魚が我々目掛けて襲ってきた。私は、間一髪で逃れたが、一緒に居た仲間が次々と飲み込まれた・・・。本当に一瞬の間だった。仲間を食い物にして遠ざかって行った。その時は、彼女も襲われそうになって逃げたのだと思っていた・・・。
だが、違っていた。他の集団でも彼女を見掛けた後、すぐに巨大魚に襲われる事件が続いた。我々は追跡を繰り返し、とうとう、彼女が巨大魚に我々の居場所を教えていたことをつきとめた。それから、他の集団とも協力して彼女を捕らえ、この辺りから出ていく事を約束させた。
それ以来、姿を見せなくなっていたのだが・・・。」
長老は、哀しい目をしていた。
「そんなに悪い子には思えなかったけれど、何か分けがあるのかも・・・。」と思ったメドゥルノは、
「分けがあるんだ。皆、誤解しているだけだ。きっと。」と、もう一度、彼女に会うために出掛ける決断をした。
(つづく)

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